緊張しながら学園の受付で転校生だと名乗ったら身体の大きな厳つい男の人に職員室まで案内してもらうことになった。廊下を歩いている最中に色々と話をしていてこの人がとても優しい親切な人だと分り人は見かけによらないって云うのは本当なのだと学んだ。そしてお千ちゃんの言っていた通り学園のセキュリティは厳重で私の通っていた女子校よりも凄く、そして学園内も広くて綺麗に掃除されていた。
「ここが職員室です。」
用務員さんは丁寧に教えてくれると職員室の扉を開き手近に居た一人の男の人の背中に声を掛ける。
「あ、土方先生。」
名前を呼ばれたその人は面倒臭そうに振り返った。
「何だ?島田。」
振り返ったその顔を見て、思わず息を呑む。そのあまりに整った容姿から目が離せなくなった。モデルでも最近はここまで完璧に整った顔をしている人を見かけないというのに、目の前のその人はダークグレイのスーツを適度に着崩して雑誌のモデル以上に格好良く見えた。
その人は私を見ると目を細めて胸の前で腕を組んだ。
「何だ?そのちっさいの。」
「転校生らしいのですが。どなたに任せれば宜しいですか?」
「ああ、そいつが転校生か。いいよ、俺が預かる。近藤さんのクラスに入る奴だからな。」
用務員さん、島田さんと言うらしい。島田さんは丁寧に、宜しくお願いします。と頭を下げ私にも目礼してその場を去った。本当に丁寧でいい人だな~なんて思っていると突然頭を掴まれ無理矢理顔の向きを変えられその所為で首が変な音を鳴らした。
「ふぅん。お前が転校生ねぇ。」
そう言ってその人は私の顔をじっくりと眺める。知り合いに確かに端正な顔をした人は居たがここまで完璧な男の人に見られていると思うと恥ずかしくて仕方ない。それに頭を掴まれ首が変な角度で曲がっている所為でとても痛かった。
「随分と女っぽい顔立ちしてんだな。」
「!!!!!!!!」
その言葉に痛みが一気に吹き飛ぶ。じっくりと全身を眺めるその目に、自然と緊張する。まさか、行き成りバレた?!私が顔を強張らせているとその人は頭から手を離し、目を細めてもう一度何かを確認するように私を見た。
「そんな顔すんなよ。別に悪気があったわけじゃねぇんだから。」
「え?」
「女顔って言われんの、嫌なんだろ?」
「あ、はい。」
咄嗟に頷くとその人は、だよな。と苦笑いした。その笑い方もまた格好良くて見惚れそうになる。それと同時に私はその様子にホッと胸を撫で下ろした。バレたんじゃないのか。
「悪いな、ここにも女っぽい顔立ちした奴は居るんだがお前はその中でも一番だよ。」
・・・・・女ですから。
「いえ・・・慣れてますから。」
私は双子の兄の言葉を借りた。私と似ている彼はよく女の人に間違われている。
「俺は土方だ。一応お前の副担任。」
「えっ、先生なんですか?」
「・・・それ以外何に見えるんだよ。」
私の中で勝手にモデルとインプットしていた所為で間抜けなことを言ってしまった。職員室に居るのだから教師に決まっているし先程島田さんが「土方先生」と呼んでいたのを思い出した。
「あ~、えっと。雪村千鶴です。今日からお世話になります。」
私は話を逸らして挨拶をする。土方先生は訝しげな眼差しを私に向けるが何も言わずに、ああ。と短く返した。そして付いて来いと言われ私は土方先生の後を付いて行く。後ろから見てもスタイルがいいのが分った。きっとウチの学校に来たら物凄い人気だろうなと、どうでもいいことを考えながら女子に囲まれる土方先生を想像する。
「おい、近藤さん。」
土方先生は腕時計を見ながらそわそわしている人に声を掛けた。
「おお、トシか。なぁもうそろそろ時間なんだが一向に転校生が来ないのは俺が日にちを間違えてるからか?」
私ここに居るんですが。私の他にも転校生のが居るのかな。
「・・・俺の後ろに、何か見えねぇか?」
「後ろ?」
土方先生の言葉に素直に従うようにしてその人は覗くと私を見て驚いたように目を見開いた。
「おお!そこに隠れていたのか!」
別に隠れてた訳じゃないんですけど。ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべるその人は土方先生を押し退け私の前に立った。
「君が雪村君か?」
「はい。雪村千鶴です。」
「そうかそうか、俺は近藤だ。今日から君の担任を務めることになった。宜しくな。」
「宜しくお願いします。」
凄く優しそうな感じの先生で私は安心した。
「いや~気付くのが遅れてすまなかったな。トシの奴が邪魔で。」
「おいおい、ひでぇ言い種だな。」
土方先生は近藤先生に目の笑っていない笑みを向けた。
「トシはもう自己紹介はしたのか?」
「とっくだよ。それより時間いいのか?そろそろチャイム鳴る時間じゃねぇのか。」
「おっとそうだった。それじゃ雪村君、行こうか。」
近藤先生は出席簿を手に持つと私を出口に促す。私は土方先生に会釈すると先を歩く近藤先生の後を追う。私を見詰める視線に気付くことなく。
それから教室に向う途中で近藤先生は色々と学校の規則を教えてくれた。
「ウチの学校は自由な校風を目指しているからきっと前の学校よりも校則は厳しくないんじゃないかな。」
「そうなんですか?壬生は厳しいって聞いていたんですけど。」
「そうなのか?それじゃ後で生徒手帳をじっくり読むといい。きっと1分も掛からずに読み終えるよ。」
近藤先生は笑みを絶やすことなく話進める一方で私の笑みはどんどん引きつっていく。何故ならば、近藤先生の歩く速さが尋常じゃない位に速いのだ。殆ど小走りに近い状態の私は緊張も手伝ってか著しい体力の消耗に参っていた。
「そうだ、部活は何かやっていたのか?ウチは部活動の参加は強制していなから入らなくても大丈夫なんだが。」
「一応、薙刀をやっていました。」
「薙刀か~。男子が薙刀とはまた珍しいな。」
言われて私は、ハッとした。男子が薙刀をやること自体はそこまで珍しくない。しかし、私が転校してきた設定の学校には薙刀部などない。調べられたら、一巻の終わりだ!!
「あ、あ~、そう、薙刀は中学まででした。高校では剣道部に少し・・・。」
この場を誤魔化そうと適当なことを言うと近藤先生は急に目を輝かせて私を見た。
「剣道部!剣道部に入っていたのか?!」
「・・・・・・少しだけですけど・・・。殆ど幽霊部員みたいな・・」
「そうかそうか剣道部か!実はな俺は剣道部の顧問をやっているんだ。ちなみにさっき居たトシ・・・土方先生が副顧問をやっている。」
「あの~・・・」
「ウチの剣道部は国体やインターハイで何度も優勝者を出しているんだ!」
「・・・そうなんですか。」
「放課後、見学に来るといい。あ、ウチのクラスにも部員が三人居るから彼等に色々聞くといいかもしれない。後で紹介するからな!」
「・・・はい。」
全く話を聞いてもらえずに私は適当に相槌を打つ。この後、この瞬間のことを死ぬほど後悔することをこの時の私が知ることが出来たらどれ程よかったことか。
そんなこんなで教室に着く。クラス標識には『1年2組』と書かれていた。中から聞こえてくる声は、当たり前だけど男子の声だけ。
「それじゃ、入るか。」
そう言って近藤先生は扉を開いた。私は一度深呼吸すると意を決した様に一歩踏み出す。
「HR始めるから席に着け。」
近藤先生が言うと嘘みたいに教室内が静かになる。私は教卓の横に立つと静まり返った室内を見た。
「・・・・・・。」
教室中の視線が私に向いている。男子ばかりの世界に、緊張して喉が渇いた。
「え~、皆の衆おはよう!今日は最初に転校生の紹介だ。さ、雪村君。」
私は促され口を開いた。
「雪村千鶴です。今日から宜しくお願いします。」
言って頭を下げると教室のあちらこちらから「宜しくなー」という声が聞こえた。
「まぁ聞きたいこととか色々あるだろうが時間もないから後で休み時間にでもやってくれ。それじゃ、雪村君の席は・・・ドコにするかな。」
近藤先生が教室内を見渡していると窓際の方の席から声がした。誰が喋っているのか、私の位置からは分らない。
「先生、この間のHRで転校生は斎藤君の隣りにするって言ってませんでしたっけ?」
「そーそー、空いてんのって一君の隣りだけだしなー。」
近藤先生は手を打つと、そうだった!と小声で呟いた。
「そうだそうだ、斎藤の隣りだったな。雪村君、あそこの空いている席に座ってくれ。」
指差された場所は確かに空席になっていて、私は近藤先生の言葉に頷くと席に向う。教室内を歩いている最中にも視線は痛い程に感じた。そんなに見なくてもいいのに・・・。私は見られていることに羞恥を感じ早足で席に座った。鞄を机に置くと隣りの席の男子に挨拶する。
「宜しく。」
上手く笑えた自信はなかったけど一応笑ったつもりでそう言うと、隣りの彼はずっと机の上に置いた文庫本に向けていた顔を私に向けた。
「ああ、宜しく。」
・・・。
どうしようお千ちゃん。物凄く格好良い人が隣に居るんですけど・・・。私は見ているのも恥ずかしくなりぎこちなく前を向く。絶対に今顔赤くなってる・・。意識しないようにすればするほど、隣が気になる。そっと横目で盗み見ると俯き加減で文庫本を読む繊細な横顔に体温が上がるのが分り、私は大人しく近藤先生に目を向けた。
「・・以上で朝のHRは終わりだ。皆、雪村君のこと頼んだぞ。転校初日だからな、色々教えてやってくれ。それじゃ今日も一日頑張れ!」
近藤先生はそう言うと教室を出て行った。私は何だか置いて行かれたように感じ、心細くなる。すると後ろから肩を叩かれ振り返ると大きな目が目立つ可愛い系の顔立ちをしたこれまた格好良い男の子がニコニコと笑って私を見ていた。
「よろしくな~!俺藤堂平助!」
「宜しく。雪村千鶴です。」
「知ってるって、さっき言ってたじゃん!!」
人懐こい笑みを浮かべ彼は元気よく喋る。すると、彼の隣りの席の男子が頬杖をついて話に入ってくる。
「平助君声大きいよ。」
「そうか?」
「そうそう。あ、僕は沖田総司です。宜しくね。」
ニッコリと笑うその顔に本日何度目か忘れた感想を抱く。格好良い。文句なしに格好良い。優しい顔立ちに見惚れる程の微笑みを浮かべた彼は丁寧に自己紹介をしてくれた。
「一君も本ばっか読んでないでさー。」
そう言って藤堂さんは腕を伸ばし私の隣の席の彼の背中をシャーペンの後ろで突っ突いた。すると突っ突かれた彼は諦めたように本を閉じ身体を横に向け会話に混ざる。
「平助。突っ突くなといつも言ってるだろ。」
「一君が澄ましてるのがいけないんじゃん。ほらほら、まだ自己紹介してないんだろ~?」
「まったく、お前は。」
「何そのあからさまに呆れてますって顔。」
文句を言う藤堂さんを無視して彼は私に向き直る。
「斎藤一だ。」
「なんか変な会話だね。」
沖田さんはクスクスと笑った。
父さん、お千ちゃん。これからここで生活していくのかと思うと、少し不安になるくらい皆格好良いです。
続く
長い。馬鹿みたいに長くなってしまいましたが切りたくなかったので続けました。
さらりと土方さん、沖田さん、斎藤さん、平助を出しました。
まだ最初なので、短いですが。
次はあの二人を出して、他にも出てくるかと。
まぁ、これからが妄想のしがいがあるんですよね。笑
一応全員断髪後の髪型を想像して下さい。
どこかのサイト様で学ラン沖田さんイラスト描いてないかな・・・
見掛けたら教えて下さい!!