モデルのようなスタイルに整った容姿を持つ副担任の土方先生。
繊細で綺麗な容姿にクールな雰囲気を持つ隣の席の斎藤さん。
可愛いくてコロコロと表情が変わる藤堂さん。
優しい顔立ちに見惚れそうになる程完璧な微笑を浮かべる沖田さん。
どうしてこんなにも格好良い人が居るんだろう。格好良い人はどこの学校にも居るけどここまで完璧な容姿を持った人が四人も居るなんて、人生で出会うイケメンに一日で会ってしまった気がする。そんなどうでもいいことを考えていると藤堂さんに頬を突っ突かれた。勿論、シャーペンの頭で。
「何ボーっとしてんの?」
それにしても格好良いなぁ。ここでこの先の男運、使い果たしそう。
「勿体無いなぁと思って。」
「何が?」
私は思わず出た言葉にしまったと口を閉じる。まさかこの先の男運を使い果たしそうな程に格好良い人に囲まれて勿体無いなぁと思ってましたなんて言える筈なくて、私は笑って誤魔化す。
「あ・・・あはははは・・・何でもないです。」
どう考えても笑う場面じゃない。しかも態とらしいし!!藤堂さんはシャーペンを器用にくるくると回しながら片目を細めた。
「つうかさ、何で敬語?」
「え?おかしいですか?」
「いや、普通におかしいじゃん。俺等同い年だろ?」
言われてみると確かにそうだ。でも、同い年の男の子は双子の兄しか知らない私は話したことのある男の人は皆年上で、男の人と話すと自然と敬語になってしまう。今まで気にしたこともなかったから急に言われても直しようがない。そう、これは条件反射。癖なのだ。
「え~と、癖・・・何ですよねぇ。」
「変な癖。」
「そう言わないの平助君。君だって誰にでも馴れ馴れしく接するっていう癖があるじゃん。」
「それは只の礼儀知らずだ。」
沖田さんがクスクスと笑いながら言うと斎藤さんは呆れたように返した。
「お前等な~。」
「別にいいじゃん、話し方なんてさ。日本語話してるんだし。どんな言葉遣いでも話が通じればなんだっていいと思うよ。」
「総司の言う通りだな。」
「何だよ何だよ!!俺だけ除け者かよ!!」
藤堂さんはそう叫ぶと私を半眼で見遣った。
「いいかー千鶴!!俺には絶対敬語使うなよ!!!いいな?!」
「え?あ?へ?」
彼の発言に驚いたというよりも、彼に名前を呼び捨てで呼ばれたことに驚いてまともな返事が出来なかった。
「返事は?!」
身を乗り出し顔をグイッと近付けられて私はその近さに半分パニックに陥る。
「返事!!」
「は、はいっ!!」
「はいィ?」
「分った!!!藤堂さんには敬語使わないから!!」
更に顔を近づけてくる彼を遠ざけたくて私は必死に叫んだ。それを聞いて満足したのか藤堂さんは、よしよし。と頷きながらもとの体勢に戻った。私は凄いことになっている心臓の動悸を抑えようと小さく息を吐いた。
「ってかさ藤堂さんはないだろ。それも癖ぇ?平助でいいよ。」
行き成り男の子を呼び捨てに出来るようなスキルは残念ながら私にはない為その言葉には頷けなかった。
「え~と・・平助・・・君とか?」
「なんだよそれ。まぁいいけどさ。」
総司もそう呼んでるし~と平助君は言って椅子の背凭れに寄り掛かった。私は苦笑いをするしかなかった。
「千鶴君はどうしてウチの学校に来たの?」
沖田さんが頬杖をついたままの姿勢でニコニコと笑みを浮かべながら聞いてくる。私は一瞬答えに詰まりそうになったけど、お千ちゃんと話し合って決めた理由を話す。
「両親が海外に転勤になって、それで全寮制で尚且つ安心出来るこの学校に転入させたんです。」
「へ~随分過保護なんだね。15歳の男の子に対して。」
言われてドキっとする。そういえばそうだ。いくらなんでも15歳の男の子に対して過保護過ぎる対応だ。私は何か言わなければと頭をフル回転させる。そんな時、徐に教室の後ろ側の扉が開いた。私達をはじめ、クラス中の視線が扉に向く。
「言い忘れた。」
そう言って笑うのは先程教室を出て行った近藤先生。先生は私を見付けるとそのままこっちに向ってきた。
「総司、平助、斎藤。」
近藤先生は三人の名前を呼ぶと私の肩に手を乗せた。
「雪村君は前の学校で剣道部に在籍していたらしい。」
・・・・・・・・・・・・はい?
「席が近いのも何かの縁だからな、是非我部に入部してもらえるようにしっかりと勧誘しておくんだぞ!」
近藤先生はそう言って呆然とする私の前から去って行った。その背中を見詰めたまま、私は先程近藤先生が言っていた剣道部に所属している三人がここに居る三人なんだと理解した。そして、三人に「しっかり勧誘しておくんだぞ」と言って去って行った。視線を感じた私はぎこちない動作で教室の扉から視線を感じる方に向けた。
「剣道部だったんだ、千鶴。」
「競技歴は長いのか?」
「段はいくつなの?」
興味津々といった表情を浮かべる三人に私は本日何回浮かべたか分らない苦笑いをするしかなった。剣道なんて、やったことも見たこともない。知り合いが剣道をやっているらしいけど、私は興味がなかった。
「なぁなぁ千鶴、剣道部入れよ!」
「・・・・ほ、他にも見て回ってから・・・」
「前に剣道部だったんだよね?なら剣道でいいじゃん。」
「幽霊部員だったので・・・。」
「ほう。」
斎藤さんは何を思ったのか私の手を掴んで掌を見た。
「肉刺が出来ているな。」
「へ?!」
「肉刺が出来る程、竹刀を握っていて幽霊部員はないだろ。」
「・・・・・・。」
なんなのこの人の鋭さ。私は乾いた笑みを浮かべながら斎藤さんを見る。勿論、この肉刺は薙刀で出来たものだ。
「というかさ、千鶴君手小さいね。」
ほら。そう言って沖田さんは斎藤さんが掴んでいた私の手を取り、自分の掌と合わせた。掌に感じる人の熱に、私は身体中が熱くなった。
「子供と大人だな。」
「総司の手がデカイってのもあるけどな~。」
「指も細いし、女の子の手みたいだね。」
熱かった身体が、今度は一気に冷める。私は慌てて沖田さんの手から離すと皆から手を隠し沖田さんを上目で見遣る。ニコニコと笑みを浮かべながら沖田さんは私を見ていた。微妙な空気が流れる中、チャイムが鳴り一限目の先生が教室に入ってきた。私はホッと胸を撫で下ろすと横を向いていた身体を前に向けた。
「雪村、教科書はあるのか?」
「あ、もう貰ってます。」
「そうか。」
斎藤さんの気遣いに感動しつつ、自分の掌を見た。さっき、沖田さんの手と合わされた私の手は確かに小さかった。友達のお千ちゃんと比べても小さい私の手は男の人と比べたらその差は明らかだろう。
・・・・大きかったな、沖田さんの手。
そんなこんなで授業を進め、前の学校とそれ程偏差値の変わらない壬生の授業は私には丁度いいレベルだった。そして、四限目が終わりお昼になった。全寮制の壬生学園のお昼は給食だった。給食当番が準備をして、班ごとに取に行く。小学校を思い出すな。
「お、雪村か。」
「雪村は転校初日だからな、出血大サービスだ!」
そう言って当番の人達は私の分の給食を大盛りでよそってくれた。折角の好意を無碍にしては失礼だと思い、断らなかったことを私は目の前の普段私が食べる量の三倍近く盛られている給食を見て後悔した。
「・・・・・・・・誰が食べるの、コレ。」
思わず漏れた言葉に斎藤さんが呆れた風にコチラを見た。
「お前、それ食えるのか?」
「多分と言いたいところですけど、確実に無理です。」
大盛りの餡かけそばに大盛りのフルーツポンチ。それに大盛りのサラダ。どう考えても食欲がなくなる。青ざめている私を見て斎藤さんは自分の皿に私の大盛りの給食を移し始めた。
「勿体無いから俺が食べる。」
「え、あ、はい。どうぞ、お好きなだけ。」
「え~!一君だけズルイ!千鶴俺にも!!」
「ていうかさっさと机くっつけちゃおうよ。」
沖田さんの一言に私たちは机をくっつけた。本格的に小学校を思い出す光景だ。
「千鶴ー俺にも俺にも~!!」
「はいはい。」
私は隣りに居る平助君の机にお盆ごと寄せた。今日始めて会った男の子の対して人見知りすることなく接していられるのはきっと人懐こい平助君のおかげだと思う。そうでなきゃ今頃私は男子校に居る事を意識し過ぎて緊張に緊張を重ねていたかもしれない。と、勝手に感謝していると平助君が私のことを見ているのに気付いた。
「・・・・どうかした?」
「え?!」
「こっち、ずっと見てるから。」
私が聞くと平助君は慌てて首を振って、何でもない!と叫び私のお皿から自分のお皿に給食を移し始めた。それから号令をかけてから全員で食べ始める。近藤先生の姿が見えないけど、いいのかな。
「なぁなぁ、千鶴。」
「ん?」
「お前って兄弟居んの?」
「兄弟・・・・・。」
聞かれて思い浮かべたのは勿論双子の兄である薫。ここで薫のことを話すのが正解なんだけど、もしも何か私が失敗した時に女兄弟が居る方が何かと都合がいいかもしれない。
「居るよ。双子の妹が一人。」
「双子の妹・・・似てんの?」
「似てるね。ソックリ。一卵性だからよく人に間違われるよ。友達も何回か間違えたな~。」
昔、中学の頃初めて薫に会ったお千ちゃんが私だと思って薫と出掛けたことがあったな。思い出に耽っている私をよそに、平助君は目を輝かせた。
「マジ?!」
「何が?」
「似てるって!」
「うん。」
「へ~、それは見てみたいなぁ。」
沖田さんも話に加わる。
「写真とかないの?」
「持ってきてはないです。」
「え~マジぃ?」
「ふぅん。じゃぁ千鶴君の髪を伸ばしたバージョンが妹ってこと?」
「まぁ、そんな感じです。」
なんでそんなに興味津々で聞いてくるんだろ。
「名前は?なんつーの?」
薫。でいいのかもしれない。中性的な名前だし、女の人にも居るから問題はない。でも兄(仮)である私が千鶴だと、なんかアンバランスな感じも否めない。
「せ、千姫・・・。」
ごめん、お千ちゃん!薫!
「へぇ~名前も可愛いんだな。」
平助君が遠くを見るような眼差しで窓の外を見ながら呟く言葉に私は何かひっかかった。
「名前『も』?」
「え?」
素直に疑問を口にする。今の会話からして『名前も』というのはどう考えてもおかしい。平助君は妹(仮)に会ったことはないのだから。私と平助君の間に微妙な空気が流れると沖田さんがクスクス笑い始めた。
「あ~あ、平助君本音が出ちゃったね。」
「な、何だよ。」
「君、千鶴君の妹に会ったこともないくせに『名前も可愛い』っておかしな台詞だと思わない?」
「・・・・・・・・。」
「それってさ、つまり遠回しに千鶴君が可愛いって言ってるようなものだよね。」
沖田さんの言葉に平助君は可哀想なくらいに狼狽えた。
「そ、そんなこと一言も言ってないだろ!!」
「言ってるようなものだって言ったんだよ、僕は。」
「~~~~~~~!!!!!!」
平助君は言葉にならない唸りを上げると、平然とサラダを食べている沖田さんに指先を向けた。
「総司だって話に食いついてきたじゃん!!!」
「妹の話にね。」
「同じじゃん!!!」
「煩いぞ、お前等。平助、人を指差すな。」
黙々と給食を食べていた斎藤さんが二人に注意する。
「一君だってすかして餡かけつっついてるけどしっかり興味持ってるくせに!!」
「妹にはな。」
「俺が違うみたいな言い方しないでよー!!!!」
平助君が絶望的な声で叫ぶとクラス中から笑いが起きた。
私は何だか複雑な気持ちで給食を食べ始めた。
続く
無計画に書いているので、出るはずだった人たちが出せませんでした。