晴れて剣道部のマネージャーとなってしまった私は他の部員へ挨拶をし、土方先生と主将の永倉先輩に部についての説明を受けた。
「え~と、剣道部の活動日は火、水、金、土の四日だ。日曜は体育館の解放がされてるから自主練する奴も居る。活動時間は15時45分から19時までだ。まぁその後夕飯食ったりなんだあるから実質18時半終了だな。」
永倉先輩が細かく説明してくれる横で土方先生は竹刀を持って怒鳴っていた。その様子がまさに『鬼の副顧問』で私は部活中は絶対に土方先生に逆らわないことを心に誓った。その後一通り説明が終わると永倉先輩は練習に戻り私は見学することになった。見学してて気付いたのは沖田さんと平助君の圧倒的な強さだった。
「やっぱ、格好いいな。」
彼等の格好良さを再認識させられ、この日の部活は無事に終わった。明日から本格的なマネージャー業が始まると思うとほんの少し、不安になる。
「馬鹿ですか貴女は。」
開口一番がそれか。私は溜息交じりの山南さんのその言葉に空笑いを返した。
部活が終わり寮に戻って直ぐに夕食を食べた私達は談話室でテレビを見ながら少し騒いだ後各自の部屋に戻った。
私は例の如く土方先生にお風呂を借りる為に9時少し前に先生の部屋に行き、40分程お風呂を借りた。そして、お風呂から出た私は髪を乾かさずに山南さんと土方先生に頼んでいた父さんのことについての話を聞くことになった。
そしてそして、剣道部のことを知った山南さんからの一言が冒頭の言葉。
「剣道部のマネージャーって・・・。自分からリスクの高い環境に飛び込むだなんて。」
「わ、私だってそう思って何度も断ったんですよ?でも土方先生が・・・」
「何だ?人の所為にすんのか?最終的に頷いたのはお前だろうが。」
「あそこで断ることが出来る人が居たら余程神経が図太い人だけですよ!」
私は土方先生を睨むが先生は全く意に介さない。山南さんも眼鏡を光らせ土方先生を睨んだ。
「まぁ、決まってしまったことをとやかく言っても仕方ありませんから。雪村君、十分に気を付けて下さいね。」
「分ってます。」
私が諦めたように頷くと土方先生は私にデコピンをする。
「いった・・何するんですか!」
「暗いんだよ、お前は。ただの気分転換に部活すると思えばいいだろうが。学校終わって直ぐに寮戻って引き篭もってるつもりか?そんなジメジメした生活するくらいなら思う存分男子校生活楽しめ。滅多に出来ない経験だぞ。」
「滅多に、と言いますか絶対出来ない生活ですからね。」
それもありかもしれませんね。土方先生の言葉に山南さんも頷く。
もしかして、私のことを気にして提案してくれたのかな。
「千鶴。お前、前はどこの高校行ってたんだ?」
「前ですか?都女子ですけど?」
「都女子って・・・都女子学院か?」
「はい。」
「は~、お嬢様だとは思ってたけど本当のお嬢学校かよ。」
「よく男子校に入ろうだなんて思えましたね。」
「都女子なんて超級の学校だもんな、男と話したこともねぇんじゃねぇのか?」
「そんな大袈裟な・・・。私にも年の近い男の人の知り合いくらい居ますよ。」
私がそう言うと二人は意外そうな顔をする。・・・失礼な。
「知り合いねぇ、お前の男か?」
「違います。」
「即答ですね。」
「ふ~ん、じゃオトモダチってやつ?」
「・・・・多分、少し違うと思います。」
私はその人を思い浮かべて、止めた。寒気がしてきた。お千ちゃん大丈夫かな。
「随分と曖昧ですね。」
「上手く説明出来る単語が思い浮ばないんです。」
「なんだそりゃ。」
「まぁ、知り合いってことで。」
私は苦笑いする。言えないよなぁ、あの人との関係なんて絶対に。
「まぁその話はおいおい聞くとして。」
聞く気ですか?!
土方先生は少し真面目な顔をした。
「ウチの両親に綱道さんのこと聞いてみた結果だが。」
「何か分ったんですか?」
「予定していた講習にも出てないみたいだな。両親も気になってたみたいだからお前のこと話したら知り合いに片っ端から聞いとくとさ。」
「そうですか・・・すみません。ありがとうございます。」
「私の方も今の所有力な情報は誰も持ってませんでした。」
つまり、今の所空振り。それでも二人には感謝の気持ちで一杯だ。
「すみません、引き続きご協力お願いします。」
頭を下げると二人が「当たり前だ。」と言ってくれたのが、本当に嬉しかった。
「協力すると言った手前、最後まで付き合いますよ。」
「途中で投げ出すのも格好悪いからな。」
「山南さん・・・土方先生・・・。」
私が二人の優しさに感激していると土方先生はニヤリと笑った。
「協力してんだから、見付かったあかつきにはお前の学校の教師紹介しろよ。」
「え?」
「都女子は美人が多いって聞いたからな。上玉頼むぞ。」
結局私欲の為ですか・・・そう言えば私を剣道部に引っ張ったのも遠征先での出会いの為だっけ。私は土方先生の印象を改めた。極度の女好き。満足そうに笑う土方先生を半眼で見遣ると不意にクシャミが出た。
「大丈夫ですか?」
「はい。」
「よく考えたら髪乾かしていないじゃないですか。それにこんなに薄着で・・・風邪ひく気ですか?」
今の私の格好は薄手の長袖のシャツにジャージのズボンといった、まさに部屋着姿。髪も濡れたままなので少しだけ肌寒い。まだ10月だと思っても、もう10月。流石に夜は冷える。
「雪村君は部屋に戻って髪乾かしてさっさと寝て下さい。続きはまた明日にでも話し合いましょう。」
流石は養護担当、体調の管理には厳しい。私は追い出されるようにして土方先生の部屋を後にした。
「山南さんは戻らないのかな。」
考えて、クシャミをする。私は大人しく部屋に戻ることにした。
「部屋に戻ったらお千ちゃんに連絡しようかな。」
昨日はなんかんだ言って疲れていた所為で連絡出来なかったから、きっと心配してるだろうし。それと今度の日曜一緒に買い物でも行こう。シャンプー等のお風呂の備品の用意をしていなかったので土方先生のを借りているのだ。これから毎日借りるのも厚かましいし、自分のを置かせてもらおう。
そんなことを考えているとあっという間に自室の前に着いた。
「まずは髪乾かしてからかな。電話は。」
呟いて鍵を回す。
「あれ?」
鍵を開けた筈なのにドアが開かない。
「鍵掛け忘れたかな。」
私はもう一度鍵穴に鍵を入れた。
「確かに鍵掛けた筈なんだけどなぁ。」
ドアを開けて電気がついていることに気付く。おかしい。本格的におかしい。電気は消した。これは自信があった。そして玄関に脱ぎ捨てられた男物のサンダルの存在もおかしい。私はこんなの持っていない。恐る恐る私はドアを閉め、部屋の中に入る。そしてそっと部屋を伺う。
「お帰り、遅かったね。」
「・・・・・・・・・どうして居るんですか?」
部屋の中には何故か沖田さんが居た。しかも私のベッドの上に寝転んで。沖田さんは上体を起こし、ベッドに座るとニッコリと微笑む。
「驚かせようと思って。」
驚いた?と聞いてくる彼に私は頷く。
「物凄く驚きました。」
そう言って私は部屋の中に入る。沖田さんの前を通って机の上に持っていた荷物を置いた。
「というか鍵どうしたんですか?掛けて出た筈なんですけど。」
「うん。掛かってたね。」
「・・・・・どうやって開けたんです?」
「企業秘密。」
ピッキングか何かかな。
「それで、驚かせるのだけが目的だったんですか?」
「ん?まぁそれもあるけど。ちょっとね。」
不自然に語尾を切ると沖田さんはベッドから立ち上がった。
「部屋に戻るんですか?」
「違うよ、ちょっと君に聞きたいことがあってさ。」
「聞きたいことですか?」
私は机の上から視線を沖田さんに向ける。そこで気付く、何故、こんなにも近くに居るのだろうか。沖田さんと私の距離は今にもぶつかりそうな程近かった。
「沖田さん?」
「随分と、長かったね。」
「え?」
笑みを浮かべながら近付く沖田さんから反射的に距離を取るため私は後ずさる。
「お風呂。土方先生の所行ってたんだよね。」
「はい。」
後ずさる私の背中にカーテンが触れる。これ以上は進めない。
「君が部屋を出た後、少ししてからここに来たんだけど中々戻らないからさ。」
沖田さんはカーテン越しに窓に手をついた。私は顔の横にある沖田さんの腕に意識がいく。追い込まれたような、まるで逃がさないというような体勢に焦りがわく。
「時間にして約一時間。土方先生がそんなにも長く生徒に自分の部屋に居ること許すなんて、おかしいと思わない?」
「・・・そうなんですか?」
「そうなんだよ。」
至近距離から見下ろされ、私はその顔の近さに気まずくなり視線を逸らす。
「一体何してたの?」
「・・・何も、少し話していただけです。」
嘘は言っていない。それでも、何故か不安になる。沖田さんの雰囲気が私を不安にさせる。
「う~ん、在り来たりな回答だなぁ。つまんないから減点10。」
「え?」
減点?
「それじゃなんの話してたの?」
「・・・・学校生活のこととか、部活のことを・・。」
「無難な感じだから減点10。」
ニッコリ笑って沖田さんは訳の分からないことを言う。減点って、何の点数なんだろ。
「長時間話してた割りに、髪もまだ湿っぽいよね。お風呂どれくらい借りてたの?」
「覚えてません。」
「覚えてないくらい長く入ってたの?」
「時間なんて、見てませんから・・・。」
「ふ~ん。何か嘘臭いなぁ。嘘っぽいから減点30。」
嘘っぽいからって・・・。
「あの、」
「何?」
「減点って・・・・何ですか?」
「何だろうね。」
「馬鹿にしてます?」
「まさか。」
クスクス笑うと沖田さんは目を細めて私を見る。その視線に、私は身体が強張るのが分った。駄目だ。私は本能的に逃げなければと思い、沖田さんの身体を避けてその場を離れようとする。しかし、沖田さんに肩を掴まれ窓に押し付けられた。背中に鈍い痛みが走る。
「いった・・・ちょっ・・沖田さん!何する・・・」
痛みに声を上げようと顔を上げると鼻先が触れる程の距離に沖田さんの顔があった。私はその時初めて気付く。沖田さんは両腕を私を閉じ込めるように窓に押し付けていることに。
「逃げようとするなんて、何でかな?減点40。」
沖田さんの前髪が私の濡れた髪に触れる。
「あ~あ、これで減点90だよ?あと10減点したら、罰ゲームかな?」
愉快そうに口端を吊り上げる沖田さんを間近で見て私は土方先生の言葉を思い出した。
『特に総司には気をつけろ』
沖田さんは私の髪に鼻を近づける。
「土方先生と同じの使ってるの?何か嫌だな、この匂い。減点20。」
沖田さんは私の耳に口を寄せ囁くように言葉を落とす。
「あ~あ、マイナスになちゃったけど。どうする?」
「・・・・な、にが・・ですか?」
私は何とか声を出す。耳に触れる彼の吐息が、堪らなく恥ずかしかった。
「何が、ねぇ。何だと思う?」
沖田さんはそう言うと私の両足の間に膝を割り込ませ、私の頬に手をそえた。
「とりあえず、この学園に来た目的を教えてもらおうかな。」
その言葉に確信する。この人は、気付いてる。私の心を知ってか知らずか、沖田さんは笑みを深めると頬にそえていた手をゆっくりと下ろし、首筋を通り鎖骨を撫でると真直ぐに胸の間を臍に向って撫で下ろす。私はギクリとした。彼は今触ったのだ、私が胸を隠している和装下着のファスナーを。まるでそれがそこにあるのを確かめるように。
「女の子が、何の為に男装してまで男子校に入ったかをね。」
やっぱり、気付いていたんだ。私は誤魔化さなければと思うのと同じくらいこの場から逃げなくてはと強く思った。土方先生の時以上の不安が、私を襲う。それはきっと、彼の、沖田さんの笑みが原因だろう。
常と何も変わらない笑みを浮かべながらも彼の目は鋭く私を見ていた。
「教えてくれないの?」
「・・・・女じゃ、ないですから。」
私が言うと沖田さんは小さく喉を鳴らして笑った。
「女じゃ、ないですかから。ね。ありきたり過ぎてつまらないよ、それ。」
笑いながら言うと沖田さんは私の両手を片手で窓に押し付けるようにして掴むと身体を密着させた。
「それじゃ、今着てる服の下に隠れてるファスナー下ろしても問題はないんだよね。」
空いている方の手を胸元に持ってくると沖田さんは服の上から器用にファスナーをゆっくりと下ろし始めた。
続く
千鶴ちゃんは胸を潰すのに和装ブラを使ってます。これは詳しくは少し後の本編で。
瀬名妄想では千鶴ちゃんはCカップです!!
小さ過ぎず、デカ過ぎず。
時間計算間違えてたので、ちょっと修正しました。