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53.『嵐の前の面倒くささ』

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通常の練習メニューに加え、土方に言い渡された早素振り1000回の所為でだるくなった肩や腕、背中を気にしながら原田は部室に向かっていた。約一時間の練習を終え、合同練習の前の練習でこれだけ身体を酷使させてどうするんだと、胸中で鬼副顧問に文句を言いながら溜息を吐く。

「・・・・3000回でも5000回でもやるから今日は終わらせてくんねぇかな・・・。」

京帝大附属御二学園高等部。この学園の名前を意識し始めたのは一年前の夏だった。それまでも有名な進学校として名前だけは知っていたが、関わり合いがなかったので特に気に留めた事はなかった。それなのに、と原田は前髪をかき上げる。
高校に入学して初めての夏休み、土方の母校である某大学で剣道の合同練習があった。その帰り道、原田は買い物がしたかった為部員達とは別ルートで帰った。その時に声を掛けて来た女子が可愛かった為軽い気持ちで付き合う事にしたが、直ぐに他に付き合っている男が居る事が分かり揉める事は目に見えて分かったので直ぐに別れた。だが相手の男に何故かバレてしまい、夏休みの半分以上をその男に潰されてしまった。学校から出れば直ぐに目の前に現れ、喧嘩腰で突っ掛かって来る。永倉や他の友人が居なかったら恐らく原田は退学処分になってもおかしくはなかったかもしれない。寮に戻ればカッターレターや携帯への無言電話。着信拒否にすると寮の電話への無言電話。ありもしない噂を流され何度も夏休みだというのに生徒指導室に呼び出された。土方や近藤、山南が居なかったらこの時ももしかしたら停学処分になっていたかもしれない。
その当時の事を思い出し、原田は思い出したくない怒りが込み上げてきた。一時間半後の合同練習の時に思い切り打ち込んでやろうと心に決め、もう一度息を吐いた。
道場で平助を追い掛け回している永倉を置いて、先に道場を出た為一人で廊下を歩く。土曜日だが選択授業を選択している生徒や教師達が居るので校内はいつもよりかは静だが、煩くない程度に賑やかだった。昼食を何処で食べようか考えながら部室のドアを開くと、中には一人の姿しかなかった。

「何だ、総司だけかよ。」

部屋の中では沖田が一人、椅子に座って携帯を弄っていた。原田は自分のロッカーの所まで進み、視界の端に入った沖田に顔を顰めた。

「おい・・・・・何携帯見詰めてニヤニヤしてんだよ・・・。」

原田の言葉に沖田は表情筋を緩めたまま携帯を閉じ、立ち上がった。

「何でもないですよ。」
「すっげぇ気持ち悪ぃぞ。」
「気にしないで下さい。」

意味深な笑みを残して部屋から出て行こうとした沖田は、振り返り原田を見た。

「左之さんお昼どうするんですか?」
「あぁ、新八待ってっと遅くなりそうだから適当に寮に戻って食うかな。」
「なら一緒に保健室で食べますか?」
「保健室って、今日は山南さん居ないだろ。しかも何食うんだよ。」

沖田はニヤリと笑うと自分のこめかみを人差し指で突っ突く。

「使えるものは、使わないと損ですよ。」
「は?」
「保健室、来ますか?」

寮まで戻るのも面倒臭かったので原田は沖田に付いて行く事にした。

「保健室鍵開いてんのか?ってか鍵は山南さんが持ってんだろ?しかもスペアは教頭が管理してるし。」
「知ってますよ。だから言ったじゃないですか。使えるものは使わないとって。」
「何使ったんだよ。」
「着いてからのお楽しみで。」
「あんま楽しみじゃねー・・・。」

何となく、想像は出来たが原田はそれ以上何も言わずに沖田と保健室に向かった。保健室に付くとドアには『入室禁止』の札が下がっている。原田は苦笑いすると薄らと話声の聞こえる保健室のドアを開け、中に居た人物達を視界に入れた。

「廊下に声聞こえてるぜ?土方先生、斎藤。」

突然の原田の登場に中に居た土方も斎藤も驚く事なく、常と同じ表情を浮かべていた。斎藤は原田の後ろに居た沖田に視線を向けた。

「よく、左之だけ連れて来れたな。」
「あ?」

斎藤の言葉に首を傾げる原田を無視して沖田は保健室のドアを閉めると鍵をかけた。

「良い感じに新八さんと平助君が馬鹿みたいに戯れてたから。」
「何だよ、最初っから俺もこのメンバーだったのか?」
「じゃなかったらお昼用意できませんよ。」

確かに。原田は胸中で呟くとソファーに座る土方の隣に座った。沖田は斎藤の隣、原田の向かい側に座っている。テーブルの上にはそれぞれ違うお弁当箱が4つ、置いてある。

「この弁当どうしたんだ?」

原田が斎藤と沖田を交互に見ると斎藤が沖田を横目で見た。

「総司が昨日校門前に居た女子達に作らせたんだ。」
「斎藤君、誤解を招く様な言い方止めてくれない?僕は只『明日の練習試合前のお昼、どうしようかな』って言っただけだよ。」
「催促している様にしか聞こえん。」
「捉え方の問題だよ。」

ニッコリと笑みを浮かべる沖田に斎藤は呆れた様に息を吐いた。

「左之さんのはその赤いお弁当箱だから。」
「決まってんの?」
「幾つも貰っても困るから僕等4人の分だけを頼んだんだよ。」

使えるのは使え、か。原田は目の前の後輩が先程部室で言っていた言葉を思い出し小さく礼を言った。

「つかここの鍵は?どうやって開けたんだよ。」
「左之さん。スペアの鍵なんか教師が簡単に手に入れられるに決まってるじゃないですか。」

成る程。原田は横目で隣に座る教師を見た。この人ならどんな相手からでも何でも手に入れる事は可能だな。胸中でそう、呟く。

「んじゃさっさと食ってこの後の事話すか。」

それまで黙っていた土方は自分の前にある弁当箱に手を伸ばす。原田は微かに眉間を寄せた。

「この後の事?」
「あ?お前何も知らねぇのか。」

土方は面倒臭そうに言うと斎藤を横目で見遣った。視線を感じた斎藤はおかずに伸ばしていた箸を一旦、止めた。その隣で沖田は既に食事を始めていた。

「少々、厄介な事があるんだ。」
「厄介?」
「時間ねぇからさっさと飯食え。話はその後だ。」

土方に睨まれ斎藤と原田は大人しく食事を始めた。食事をしながら原田はなんとなく、自分が呼ばれた理由が分かっていた。この面子が揃うという事は、おそらく共通の秘密を抱えているからだろう。その秘密とは一つしかない。雪村千鶴の事だ。原田は千鶴に何かあったのかと内心、少し焦れていた。4人は弁当を10分程で食べ終え、保健室に置いてある珈琲を勝手に淹れて飲んでいた。コップは勿論紙コップが備え付けである。

「まぁお前もなんとなくは分かってるとは思うが、話は千鶴の事だ。」

矢張り。原田は小さく頷き土方の言葉の続きを待つ。

「時間もねぇから端的に話す。今日来る京帝大附属御二学園高等部だが・・・・今日のメンバーに千鶴の知り合いが居る。」
「・・・・そいつは・・・面倒ですね。」

言って気付く。だから今日は千鶴は部活を休んだのかと。納得して、疑問が浮かぶ。

「千鶴が居ないなら問題ないんじゃないんですか?」
「それがそうも言ってらんねぇから面倒なんだろうが。」

土方は腕を組むと背凭れに深く凭れた。原田が意味を理解出来ないでいると斎藤が代わりに口を開く。

「その知り合いと俺達はこの間会ったんだ。」
「また、何で。」
「千鶴が一人で何かこそこそとしていたんでな。」
「ちょっと後追ったら遭遇しちゃったんですよ。」

沖田が軽い調子で言うと斎藤が大袈裟な溜息を吐いた。

「つまり、三人で千鶴の後追っ掛けたらそいつに遭遇して、一悶着あったと?」
「簡単に要約するとそんな感じです。」
「千鶴が“女”の時に会ってしまったから面倒なんだ。向こうは、自称千鶴の夫らしいからな。」

斎藤が眉間を寄せながら吐き出す様に言う。

「夫ぉ?」
「自称だ。自称。」
「なんかそいつ結構いかれちゃってる感じの奴で。千鶴ちゃんにその気はまったく無いらしいんですけどね。」
「寧ろ迷惑がっていたな。」
「と、言うわけでそいつが勝手に盛り上がって千鶴ちゃんの事で僕等に因縁付けてるっていうか。」
「けちょんけちょんにしたいらしい。」

斎藤が無表情で言うと沖田が声を出して笑い出した。原田は何となく分かった様な分からない様な曖昧な感じなので取り敢えず土方を見た。土方は火の点いていない煙草を咥えたまま天井を見ながら話す。

「つまりだ、千鶴の知り合い・・・まぁ風間っつーんだが、そいつが俺達が“女”の千鶴と知り合いだと勘違いして勝手に嫉妬してライバル心燃やしてんだよ。」
「“女”の千鶴ちゃんとも知り合いではあるけどね。」
「だから今日の試合の時にきっと千鶴の事でまた色々言ってくる事が予想できるんだ。」
「つまり、“女”の千鶴の事で揉めてるっつーことでOK?」

原田が確認すると沖田が笑顔でOKと返した。

「だから何かあの馬鹿野郎が口走ったら、お前フォローしろ。」

土方に睨まれながら命令され、原田は一瞬固まったが直ぐに戻ってくる

「いやいやいや、土方先生無理っしょそれ。俺何も知らないんだから。」
「知らないからこそフォロー出来んだろ。今回の件じゃ俺も関わってっからお前しか居ねぇんだよ。」
「つか他の部員何も知らないんだからフォローなんか必要ないんじゃ・・・。」
「あまい。」

土方は原田の胸倉を掴むと至近距離で睨みながら低い声で訴える。

「お前はあの異常さを経験してねぇからそんな事言えんだよ。異常も異常、正真正銘の異常者だ。脳の活動が他の人間と違う回路でシナプスが興奮してんじゃねぇかと思うくらいに異常なんだよ。」
「分かりましたから至近距離でそんな極悪な顔で見詰めないで下さい。」

土方のあまりの迫力に原田は視線を逸らす。

「左之さんも実物見れば直ぐに分かりますよ。異常だって。異常っていうか、キモイんだけどね。」
「最初から最後まで異常だったからな。奴の言動は。人間諦めている様なものだ。」
「お前等にそこまで言われる風間とやらに俺は早く会いたくなったよ。」

原田の言葉に三人が鼻で笑った。

「ああ、そうだ。左之助。お前、御二学の不知火って奴知ってんだよな?」

土方の口から出た名前に原田は一瞬で顔を顰めた。

「知りません。」
「嘘吐くな。」

土方の素早い突っ込みに原田は深く息を吐いた。

「今朝の部活休みたい理由だろ?」
「・・・・そうです。」
「その不知火って奴とも知り合いらしいぞ。」
「誰がですか。」
「千鶴。」

土方の言葉に、他の三人は揃って目を見開き土方を見た。

「今朝千鶴から聞いたんだけどな、風間の幼馴染らしい。」

静けさが広がる室内に、斎藤の声が虚しく散った。

「どんどん面倒臭くなる・・。」

原田は胸中で激しく同意した。

しかし、四人の心配を余所に問題は違う方向へと進んでいく事になる。

 

続く

 

早くあの人を出したいのに中々話がすーすーまーなーい・・・

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