部屋の空気を入れ替える為に少し開いた襖から見える空は灰色。厚い雲に覆われたそこからは今にも一滴、落ちてきそうだ。しかし、そんな空模様も視界に入っていなければ知る事もない。今、部屋の主の視線の先にあるのは細かい文字の羅列だった。一頁、一頁。ゆっくりと捲っていると不意に隣に居た人物が立ち上がる気配を感じ、沖田は顔を上げた。横を見ると主に見捨てられた縫物と裁縫道具が畳に広がっている。
どうしたのかと微かに首を傾げようとした沖田の首に、細い腕が回る。
感じる背中の温もりに沖田は小さく笑った。
「どうしたの。」
「私の存在を忘れる程、面白いのですか?」
「忘れてないよ。」
「なら、何故無視するのですか?」
拗ねたような口調に沖田は苦笑いする。
「何、本に嫉妬?」
「いけませんか?」
「いけないとは言ってないけど、ちょっと子供っぽいよ。」
子供っぽい、その言葉に反応するかのように首に回る腕に力が込められ、少し息苦しくなったが沖田は何も言わずに受け入れた。
「私に、子供っぽい事をさせているのは貴方ですよ。」
「僕の所為?」
「はい。」
耳朶に触れる相手の吐息に沖田は目を細め、口角を上げる。
「もう大分長い時、私を無視しているではないですか。」
「してないよ。」
「嘘。」
静かな室内にはっきりとした声が広がる。
「つまらないです。」
「もう少しだから。」
「もう少しとはどれくらいですか?」
「もう少しはもう少しだよ。」
「分かりません。」
「分かってるくせに。」
小さく声を出して笑う沖田の背中から温もりが離れるが首に回る腕はまだそこにある。
「早く構って下さらないと他の方の所に行ってしまいすよ。」
「そう。」
素っ気無い沖田の言葉に内心しつこくし過ぎたかと後悔するが今更引けないので言葉を続ける。
精一杯の、強がりを。
「いいのですか?他の方の所に行っても。」
「それは君の自由だよ。」
「ほ、本当に行ってしまいすよ。」
上擦った声に沖田はこっそりと笑う。
「そう。」
「・・・・。」
興味のなさそうな適当な沖田の反応に下唇を噛み締め、そっと首に回していた腕を離した。
けど、離そうとした右腕は沖田に掴まれ自由をなくした。
「何処に行くのも、誰の所に行くのも君の自由だ。でも、そんな君の自由を僕は許すつもりはないよ。」
左手で押さえていた本を閉じて、沖田は振り返り驚いた様に目を見開く姿を視界に入れた。
「つまらなくても、此処に居ろよ。じゃないと、大人っぽい嫉妬で君を困らせるよ。」
数回瞬きを繰り返し、自分を見上げる沖田に小さく笑う。
「大人っぽい嫉妬って、何ですか?」
「それはその時のお楽しみ。」
「あまりお目に掛りたくないです。」
くすくすと笑うその姿に沖田は掴んでいた腕を離し、身体ごと振り返った。
「どうして笑ってるの。」
「どうしてって?」
「さっきまで拗ねてたくせに。」
「だって、沖田さんやっと私の事見てくれたから。」
「それだけ?」
「それだけです。」
自分を見詰める沖田を見詰め、そっと笑みを深めた。
「沖田さんが私を見てくれるだけで、嬉しいから。」
はにかんだような笑みに沖田も自然と笑う。
「本当に・・・」
短く言葉を切って、目の前の相手の頬に手を添えた。
「僕の事好きなんだね、千鶴ちゃん。」
沖田の言葉に顔を赤く染め上げ、少し俯いたそこから小さな声が聞こえた。
「意地悪・・・・。」
最近全然書いてなかったので、思いだす感じで・・・。
口調とかね、忘れるんですよ。。。haha・・